金茂研究センター
中国法務最新トピック:電子商取プラットフォームである美団による「二者択一」行為について―美団の行政処罰に関しての解析―

中国法務最新トピック:電子商取プラットフォームである美団による「二者択一」行為について―美団の行政処罰に関しての解析―

「中国法務最新トピック」は日系企業を向けに、中国法務の視点から注目度の高い最新トピックを紹介し続けさせていただきます。

本专题将持续为日资企业提供中国法律最新热点问题的解读。本次题目为:从美团案看平台经营者的二选一行为。


電子商取プラットフォームである美団による「二者択一」行為について
―美団の行政処罰に関しての解析―

はじめに

2021年10月8日、中国の独禁法当局である国家市場監督管理総局(以下「市場監督総局」という)は、美団(びだん、英語: Meituan))社のネットフードデリバリープラットフォームサービス市場において実施していた「二者択一」行為(取引先に対して、競合他社とは取引しないよう迫る行為)と認定し中国の独占禁止法(以下「独禁法」という)に定める市場支配的地位の濫用行為に該当するとし、独禁法第47条及び第49条に基づき、美団社に対して違法行為の差止め、かつ排他的な事業提携であったための受領した保証金12.89億元(約220億円)の返金を命じ、2020年中国国内における売上高1147.48億元の3%、合計34.42億元(約600億円)の罰金を科すと発表しました。これは、今年4月にネット通販大手アリババ集団に対して、独禁法違反で中国では過去最大となる182.28元(約3千億円)の罰金を科した後、市場監督総局がまたもIT大手への巨大な罰金を科した事件(以下「本事件」という)です。

本稿は、本事件のプラットフォーム事業者の「二者択一」行為に関しての性質及びその法律上のリスクについて検討し解析を試みます。

一、「二者択一」行為の性質

本事件において、美団社は、ネットプラットフォーム事業者として中国国内のネットフードデリバリーサービス市場の支配的地位を濫用し、プラットフォーム内の事業者が他の競争関係のあるプラットフォームにおける事業展開を妨げ、関連市場の競争を排除・制限し、プラットフォーム内の事業者の権益及び消費者の利益を損なったと認定されました。美団社の「二者択一」行為は、主に以下のようなものでした。

(1)様々な手段(例えば、排他的な提携関係のない事業者に差別的な料金を請求することなど)を用いてプラットフォーム内の事業者に排他的・独占的な提携契約を締結させたこと;

(2)排他的な提携契約の履行状況を従業員業績評価基準に組み入れ、代理店管理を強化させたこと;

(3)ビッグデータシステムを開発し、プラットフォーム内の事業者が他のプラットフォームに出店することに対してモニタリングで自動的に監視及び処罰を行ったこと;

(4)様々な処罰措置を総合的に講じ、プラットフォーム内の事業者に他の競争関係のあるプラットフォーム事業者との提携停止を強要していたこと;

(5)排他的な提携関係のあるプラットフォーム事業者に対して担保金を請求したこと。

なお、かかる行為は、プラットフォーム型市場のみならず、それ以外の市場でも存在しています。例えば、カルフール会員店の開店日の2021年10月22日当日に、競争相手たるサムズクラブが、カルフールのサプライヤーに対し係る商品の買占め、提携関係の解除を要求したことが報道されました。サムズクラブの行為の趣旨は取引先と競争相手との取引を制限することにあり、本事件と同様に「二者択一」行為に該当すると思われます。

本事件では、市場監督総局は、美団社の行為が独禁法17条4項所定の市場支配地位濫用行為に該当すると認定しました。同項によれば、市場支配地位を有する事業者は正当な理由がなく、取引相手が己とでなければ取引を行うことができないよう限定し、又はその指定する事業者とでなければ取引を行うことを限定することと規定されています(以下「排他的取引」という)。なお、2021年10月23日新たに公布された改正独禁法案(パブコメ)では、市場支配地位の濫用市場支配的地位を有する事業者が、データ、アルゴリズム、技術及びプラットフォームのルール等を通じて障壁を設け、他の事業者に対して不当な制限を設けることも市場支配的地位の濫用行為の一種として追加されました。

また、排他的取引の認定基準について、国務院独占禁止委員会により2021年2月7日に公布・施行された「プラットフォーム型市場に関する独占禁止指針」(以下「指針」という)15条(限定取引)では、プラットフォーム事業者の「二者択一」行為又は取引相手に己と排他的取引を強要すること等を明確に排他的取引の該当性の判断要素について規定されています。同条によると、排他的取引に該当しているか否かについて、主に次のような事由を考慮することができるとされています。

(1)プラットフォーム事業者がショップのブロック、検索順位の引き下げ、パケット制限、技術妨害又は担保金の徴収等の懲罰的措置を講じて実施した制限は、市場の競争及び消費者の利益を直接に侵害するため、通常排他的取引に該当すると認定することができる;

(2)プラットフォーム事業者が補助、割引、優待又はパケットの支援等の奨励的措置を講じて実施した制限は、プラットフォーム内の事業者、消費者及び社会全体の福祉に一定の積極的な効果がある場合においても、仮に市場競争に対して著しい排除・制限の影響があるときは、排他的取引に該当すると認定されることもある。

本事件では、美団社がプラットフォーム内の事業者と排他的な提携協議を締結したほかに、締結された当該事業者に対して追加的なパケット及び補助金の付与、優先配送、配送範囲の拡大、配送できる最低価格をさらに引き下げる等の優遇措置を講じていました。美団社が関連市場で大きなシェアをもっていることから、結果として、上記優遇措置を講じることは、直接的制限との間に本質的な差異があるとは言えないため、市場監督総局は、美団社の行為が排他的取引に該当するかを検討するに際し、上述の優遇措置も判断要素の一つとし、かつ他の事由に合わせて美団社の市場支配的地位の濫用行為であった、という結論を下しました。

二、排他的な提携契約を締結する際の自己意思があったのを抗弁理由とすることの可否

本事件において、美団社は、プラットフォーム内の事業者が自発的に排他的な提携協議の締結を申し込んだ理由に抗弁しました。確かに、これまでの協議の内容によれば、当該「二者択一」は、美団社により一方的にプラットフォーム内の事業者に押し付けられたものではなく、当該事業者が自分の意思で美団社と契約を結んだ結果だったという受け止め方もできると思われます。例えば、締結された「戦略的提携パートナーシップ優遇政策申請書」、「誠実な戦略的提携パートナーシップ優遇政策自発的申請書」において、「申請」、「自発的」という表現が用いられています。

しかし、実際に美団社が排他的な提携関係のある事業者より高い料金とコミッションを排他的提携関係のない事業者に請求していた等の事実があったので、市場監督総局は、プラットフォーム内の事業者が相対的に弱い立場にあり、美団社からの要請に従わざるを得ないとし、美団社の上述抗弁理由を認めませんでした。

このことから分かるとおり、書面では「自発的」、「申請」といった文言によって「二者択一」がプラットフォーム内の事業者の自分意思に基づいたものと明確に示そうとしても、独占禁止執行機関が他の状況証拠に合わせて排他的限定取引と認定する可能性があると考えられます。

三、「二者択一」行為に関しての他の法的リスク

1. 不正競争行為に該当するか

「不正競争防止法」第12条2項は、次のように定めています。

「事業者が技術的な手段を利用し、利用者の選択に影響を及ぼすこと又はその他の方法を通じて、次の各号に掲げる、他の事業者が合法的に提供するネットワーク商品又はサービスの正常な運営を妨害し、破壊する行為を行ってはならない。

(一) 他の事業者の同意を得ずに、当該事業者が適法に提供するネットワーク商品又はサービスにおいて、リンクを挿入し、強制的に特定のページへ移動させること;

(二) 他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを修正し、終了し、アンインストールするよう利用者を誤動し、欺き、強迫すること;

(三) 悪意をもって、他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスと互換性を持たせないこと;

(四) 他の事業者が合法的に提供するネットワーク商品又はサービスの正常運用を妨害し、破壊するその他の行為。」

同項3号までは、不正競争行為の内容を限定していることから本事件に該当されないこととはいえ、事業者が技術的手段を利用して「二者択一」行為を実施したことにより、他の事業者が顧客を失ったことで同項4号を適用して不正競争行為と認定することも可能ではないかと考えられます。

2.「電子商務法」第35条にも違反か

「電子商務法」第35条では、「デジタル・プラットフォーム事業者は、サービス協議、取引規定及び技術的手段等を利用して、デジタル・プラットフォーム内の事業者の取引、取引価格及び他の事業者との取引等を不当に制限し或いは不当な条件を設定し、又は不合理な費用を徴収してはならない」と定めています。上述の通り、「二者択一」行為は、排他的な提携協議の締結、パケット制限等の方式で排他的提携協議が保障され実施されることが一般的であります。この行為者はデジタル・プラットフォーム事業者に該当する場合、当該事業者が実施された「二者択一」行為について、同条が適用される可能性があると思われます。

また、同法第82条により、第35条に違反した場合、市場監督管理部門は一定の期間内に是正することを命じ、かつ5万元以上50万元以下の罰金を科することができます。情状が重大な場合、50万以上200万元以下の罰金を科することができます。

四、おわりに

本事件の科された巨額罰金から、中国各業界でのリーディングカンパニーが行っている独禁法に違法行為を容赦なく取り締まる、という市場監督総局の決意が示されています。本事件の当事者である美団社がネットフードサービス企業に該当しますが、他の業界の企業も留意すべきと思われます。

なお、本事件において市場監督総局は、美団社に対して、事業運営における競争行為の規範化及び企業内部の独占禁止コンプライアンス制度の改善に関する行政指導も行いました。例えば、当該行政指導書によると、美団社は公平・合理・無差別の原則に従ってプラットフォーム内の事業者と取引すべきであり、事業者から不当な高価なサービス料を徴収してはならないという指導内容が記載しています。さらに多角的な外部評価システムの構築及びプラットフォームの内部管理規則の改善等も言及されています。これらの提案は、美団社のみならず、他の企業もコンプライアンスの面においても参考になると考えます。

【執筆者】

弁護士 段潔琦

jieqi.duan@jinmao.com.cn

金茂律師事務所所属(2012年弁護士登録)。2010年に華東師範大学を卒業し法学修士学位を取得。2008年-2009年間に日本神戸大学に留学。2010年9月に当事務所入所。2012年に岩田合同法律事務所に短期研修。主に金融取引関連(ファイナンスリース、商業ファクタリング、デリバリー商品)、外商投資、会社法関連の分野に携わっている。

過去トピック(往期链接):

1.「中華人民共和国外商投資法」に伴う外資参入段階の基本的な方針について

(岩田合同法律事務所経由で配信)
https://www.iwatagodo.com/publications/uploads/file/201906_inttopic_jinmao.pdf

2.先物法(草案)におけるシングル・アグリーメント制度とネッティング制度の確立

https://mp.weixin.qq.com/s/L7pwpLRGV7_p86phKluJNg

3.データセキュリティー法の要点についての解説

https://mp.weixin.qq.com/s/UJyAxxdmzX5HoDg5gyeBgA

4.国外の親会社に従業員の個人情報の移転の法的リスク及びその対応策について

https://mp.weixin.qq.com/s/P-Xb18IPIe7917VV500zjw


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